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タイで台頭、中国ブランドのEV

コラム

(2024/06/28)

東南アジアにおいて、最大の自動車生産国と知られるタイ。近年は国際モーターショーも実施する自動車の一大市場でもある。これまで、日本車が販売が大きくシェアを占めていたのだが、その流れが変わりつつあるという。どのような変化が見られるのか。

・EV移行のなかで
今もなお、タイ国内で大きな人気を誇るメーカーはトヨタ。これは言わずもがな、だろう。タイ国内、特に首都バンコクでの渋滞はよく知られることだが、多くは日本車が各地の道路を埋め尽くしている。リサーチデータによると、タイ国内の販売は2022年の時点でおよそ88万7千台とされ、東南アジアではインドネシアに次ぐとのこと。そして、このうち、日本車が占める割合は80%を超える。性能の良さ、燃費の良さなど、手頃感も含め、タイの市場は文句なしの”独壇場”だったと言える。

ところが、あるときを境に雲行きが変わったとのこと。これまで韓国や中国のメーカーがタイの市場に乗り込み、その牙城を崩そうと挑戦してきたものの、”自動車=日本車”という揺るぎないイメージがしっかりと定着しており、そうやすやすと他国の自動車に人気を奪われるようなことはなかった。だが、タイは日本車を購入する大きな市場だけでなく自動車を生産する有数の工場であり、当然ながら現地工場を持っていた日本の自動車メーカーの人気を下支えしてきたが、近年はEVを売りたい企業がタイ政府との契約に調印しているという。

タイではEVを輸入する企業が政府との覚書が成立すれば、1台あたり15万パーツ(およそ65万円)の補助金が支給される。また、関税も最大40%が引き下げられる厚遇をとっている。結果として販売価格が安くなるため、中国大手のEVメーカーであるBYDをはじめとする10社以上が締結を行ったと言われている。タイの平均所得は、日本に比べて正直まだ低く、逆に新車価格には物品税がかかるため、結果として日本より高額の”買い物”になる。おいそれと新車を買えないのが現状なのだ。また、タイ国内において、日本のメーカーはEVを販売していない。それどころか、ハイブリッドもまだまだ。最近では、スズキが2025年までにタイ工場を閉鎖する発表をしたばかり。スバル車も現地の合弁会社が現地生産をやめると言われている。80%を確保していた日本車のシェアは下降線をたどりはじめ、今では80%を割るまでになっている。逆に中国勢のシェアは11%に伸び、前年比で2.2倍になったという。シェア低下は当然の流れであることが明白だ。

・EV工場を誘致
現在、タイ国内におけるEVの新車市場は前年比7倍という”うなぎのぼり”状態。割合としては、9.5%へと急上昇している。ただ、タイ政府としては、EV販売だけを厚遇しているのではなく、これまで日本の自動車メーカーによる現地生産が行われてきたように、これからは、各EVメーカーに、その生産拠点を誘致することを目論んでいる。先に述べた覚書には、2024年以降、輸入した台数以上のEVをタイ国内で生産することを義務付けている。つまり、EVが売れた分以上に生産せねばならず、生産拠点を設ける必要がある。当然のことのように、BYDや長安汽車が工場を設立し、すでに現地生産に向けて準備が始まっている。タイは東南アジア最大の自動車産業の集積地であるため、多くの自動車メーカーがこれまでも生産拠点を構えてきたという”地盤”がある。扱うクルマがエンジン車からEVへと”スイッチ”するだけで、引き続きASEAN市場をカバーすることに違いはない。2030年までに新車生産台数の3割をEVにすることを目標に掲げるタイ政府としては、この追い風をさらに強いものとしたいのだ。逆に日本のメーカーは極めて限定的な動きしか見えない。タイ政府と調印しているのは、トヨタのみ。ようやくEVの少量生産に乗り出したものの、本格的な時期は見えてこないと言われている。あくまでも消極的であることが見て取れる。

日本メーカーの及び腰の動きに対し、国内の販売店もすばやく反応を見せているようだ。つい最近までスズキの販売店だった場所がBYDのディーラーに替わったという実情もある。いわゆる”くらがえ”が増えているのだ。これまで日本車を販売してきた店舗が、日本車に加え、新たに中国メーカーのEVの取り扱いを始めるケースもあるのだとか。徐々に国民の興味がEVへと傾くのは、時間の問題なのかもしれない。積極的にEV販売を実施する中国勢、そしてハイブリッドをはじめとした車両を主軸に、依然として慎重な姿勢を維持しようとする日本勢。”大きな買い物”をするタイ国民がどちらの車両を購入するか、その答は否応なしに見えてくるのではないだろうか。

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