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コラム
(2024/07/19)「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、2025年4月13日から 10月13日までの184日間、大阪の人工島「夢洲」を会場に開催される予定の「大阪・関西万博2025」。開催まで9ヶ月を切るなか、遅々として進まないパビリオンの建設はじめ工事中のメタンガス検出、爆発事故など、どうしても”マイナス”の話題が先行する。そんななか、期間中の”目玉”のひとつであった「空飛ぶクルマ」の商用運行の断念が先月正式に発表された。近未来での運航に向けて期待が膨らんでいたなかでの断念。その理由とは?
・世界中で運航計画がある”空飛ぶクルマ”
大阪・関西万博開催を前に、来週フランス・パリでいよいよ開幕するのが2024年のオリンピック。実のところ、このオリンピックの会場では、欧米のメーカーが商用運航を予定していたが、ここにきて規制や認証の遅れが足かせとなり、商用での運航を断念。最終的に実験的運用に切り替えたという報道がなされた。これによると、ドイツの航空機メーカー「ポロコプター」が開発したエアタクシーのeVTOL「VoloCity」は、大会期間中に無償での試験飛行に限ったパリ上空での飛行許可をフランス政府から得たとしている。期間中は、同国のルブルジェ空港、シャルルドゴール空港、さらにはパリ市内のオーステルリッツ駅付近のセーヌ川上に発着施設が整備されるといい、操縦士と乗客1名の2人乗りにて運航するとしている。運航時には、パリ市内の建物上空を避けて、セーヌ川の上空を飛行する予定だという。
一方の、大阪・関西万博のほうはどうか。今回、大阪・関西万博での商用運航を明言していたものの、デモフライトへとシフトせざるを得なくなったのが、スカイドライブ。この会社は日本で唯一次世代空モビリティの設計と製造を行なう会社である。同社では、大阪・関西万博での商用運航を目標としていたが、想定していなかった課題が見えてきたという理由から、運航計画が頓挫。すでにアメリカ連邦航空局に型式証明を申請~受理されており、審査を受けているところだというが、実用までには至らないようだ。公共交通機関としての許可が得られなければ、運航は実現しないのはもちろんだが、同社では替わってデモフライトを実施することを明らかにしている。
・どうなる?ほかの”空飛ぶクルマ”
大阪・関西万博において”空飛ぶクルマ”の運航事業者として選ばれたのは、スカイドライブを含み4社。2023年にANAホールディングス、日本航空、丸紅そしてスカイドライブが選定されている。ANAはアメリカのジョビー・アビエーションと共同参画。日航はパリオリンピックでデモフライトを行なうボロコプター。そして丸紅はイギリスのバーティカル・エアロスペースの機体を使用するが、一方で、スカイドライブだけが自社での開発を進めており、その期待値も高かっただけに残念という声も上がる。
また、商用運航の断念を明言しているのはスカイドライブだけではない。すでに丸紅も同様の発表を行っており、デモフライトに留まるという。さらには、残るANAホールディングスと日航においても商用運航の実施についてはなんら方針を明らかにしていない。ここまでくると、もはや実際に商用運航できる事業者はないのでは? という懸念が生まれてもおかしくはないだろう。大阪・関西万博の主要事業がすっかり暗礁に乗り上げる形となっており、これでは集客に多少なりとも影響があると思われても仕方ない。会場へのアクセスがお世辞にもスマートだと言い難いだけに、”空飛ぶクルマ”の失速は、マイナス面での”大きな話題”となってしまったようだ。
・空飛ぶクルマ、この先は!?
大阪・関西万博では、乗客を乗せずにデモランのみに留まるスカイドライブ。だが、どの一方で”その先”を見据えた動きは見せている。今年3月からは静岡・磐田市にあるスズキのグループ工場において、試作機の製造を開始。機体量産に必要となる国の「型式証明」を取得するにあたっては、2026年以降を目指している。また、他企業との連携も行っており、次のターゲットとして九州を選んでいる。ここでは、JR九州と連携協定を締結。将来、JR九州の駅や商業施設などに離着陸場を設置し、実用化を目指す。
1970年に大阪・千里丘陵において開催された先の大阪万博では、のちに実用化された”夢の製品”で溢れた。動く歩道、モノレール、電気自動車、テレビ電話、携帯電話など、確実に我々の生活に入り込んでいるものばかり。次の大阪・関西万博では、近い将来に実用化されるものとして果たしてどういったものを目にすることができるのか。空飛ぶクルマがデモフライトの域を出ないのであれば、”万国博覧会”の魅力を存分に引き出すことは難しくなりそうだ。