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コラム
(2024/07/30)今年1月に突如としてメディアに紹介されることとなった、大阪におけるF1の誘致案。大阪観光局による発表はまさに”寝耳に水”状態で、この無謀とも言える発表にモータースポーツファンからの失笑を買うような状況でもあった。だが、このたび、「大阪モータースポーツ推進協議会」を発足させ、正式にF1誘致にむけてさまざまな活動に着手するという。今回はその現状をお伝えしよう。
・事の発端は吉村府知事の”つぶやき”!?
突然の発表とも思われた今回のF1誘致。遡れば、2019年2月に当時は大阪市長だった吉村洋文氏によるSNSだという話がある。2025年に控える大阪関西万国博覧会開催後、整地された夢洲へ誘致したいという意向を記したのだとか。当時はあくまでも”つぶやき”だったせいか、話が特段大きくなることはなく、2022年の時点で大阪市として内々に検討したものの、採算が取れないという結論に至り、断念したと報道された。それが時を経て、今年1月に改めて多くの人に知られることになった。
ただ、今回正式に声を上げたのは、知事ではなく大阪観光局。公益財団法人であり、大阪府と大阪市における観光事業の振興やコンベンション誘致、さらにはその支援等を行うのが主な仕事だ。つまり、観光の一端としての誘致活動であるため、”モータースポーツ観戦ができる都市・大阪”を国内外からの富裕層に向けて広くアピールしていることは明白だ。根っからのモータースポーツファンを両手を上げて熱烈歓迎しているという感じではなさそうだ。
驚きの報道からわずか1ヶ月後には、鈴鹿サーキットを運営するホンダモビリティランドから、鈴鹿サーキットでのF1日本グランプリの開催契約において、FIAフォーミュラ・ワン世界選手権との合意によって2025年から2029年までの開催契約が締結されたという発表が行なわれた。かつては静岡・富士スピードウェイでの開催もあったが、コロナ禍での開催中止を除けば、2009年以降毎シーズン鈴鹿で開催されている。毎年多くのファンを集め、今年は秋開催にかわって4月開催となった。今では鈴鹿はオールドコースのひとつとなり、F1パイロットからも、世界屈指の名コースとして高い人気と支持を得ているサーキットとして知られる。一方、他国での開催を見ても明らかだが、同じ国での2開催は極めて難しく、ましてや小国の日本、しかも移動に時間と労力を要するだけに、大阪が誘致に手を上げた事に対し、「鈴鹿があるのに、なぜ!?」と、気を悪くするモータースポーツファンもいただろう。モータースポーツにさほど縁もゆかりもない、商業都市・大阪でなにゆえモータースポーツの最高峰のひとつ、F1を開催する必要があるのか? そういぶかしむ声は少なくない。
・F1は総合的エンターテインメント!?
巨額なマネーが動くF1界。ドライバーの気持ちを知ってか知らずか年間レース数はどんどん増え、世界中のあちこちにサーキットが新設され、国家レベルで開催に対する思惑が発生している。かつてはアメリカでのF1開催はさほど人気がなく、「アメリカにはインディカーレースがあるのだから、F1など不要」という空気が流れていた。しかし、現在では砂漠のど真ん中、ラスベガスは開催2年目を迎える。乱立するカジノとホテルのきらびやかな夜のライトを浴び、市街地でレースを展開。スポーツイベント開催をエンターテインメントとして捉えている大会のひとつだ。確かに、世界三大レースのひとつ、伝統のモナコGPなどは市街地レースのはしりであり、富裕層がレースをヨットに乗って観戦に興じるという華やかな大会だが、淡白なコースとはまったく異なり、狭いコース幅で攻防戦を展開するドライバーたちの高度なドライビングテクニックと、街並みと海のコントラストが高いオリジナリティを醸し出すなど、得も言われぬ魅力がある。申し訳ないが、土砂などの産業廃棄物を埋め立てた人口島である夢洲では、何の魅力も発進できないのではないだろうか。
夢洲は、2025年にEXPO2025 大阪関西万博を予定している。その後は、IRつまり統合型リゾートの設置を目論む。大阪市内からは延伸して地下鉄も引き込む。かつて”ゴミの島”だった場所を”夢を見る島”へと変貌させるためにガンガンと注ぎ込んだお金をしっかりと”回収”する必要がある。それゆえのIRであり、その先にF1誘致を描き出したのでは? そういう考えにたどり着く人もいるだろう。参考までにIRの完成は2030年予定とのこと。IRより先にF1誘致はどう考えても難しいし、成り立たない。IRが稼働しはじめてから「次はF1を!」という流れになるはずだ。
なお、ラスベガスに留まらず、カジノ絡みとしてのF1はシンガポールでも開催されている。つまり、大阪もそのパターンにあやかりたい、という”本音”が透けて見える。巨額のマネービジネスでもあるF1だが、引く手あまたのこのイベントを引っ張り込むには、それなりの出資も必要であることに、大阪観光局は果たして気づいているのだろうか?
このたび発足した協議会では、誘致に向けてモータースポーツに知見を持つ9名の有識者が参加する初会合を来月8月に行なうとのこと。そのなかには、全日本スーパーフォーミュラ選手権を主催する日本レースプロモーションの近藤真彦取締役会長、レーシングドライバーであり、スーパーGT GT500のTGR TEAM SARDで監督を務める脇阪寿一氏やトライアルライダーの小川友幸選手や、ウェブメディアの編集長等が名を連ねている。国内外のモータースポーツをよく知る彼らが、きちんと”本音”を語れば、大阪でのF1開催は限りなく”夢物語”だと気付く関係者も多いはず。しかしながら、ここにどれほどの”忖度”が発生するのかはわからない。まずは、今後の展開を注目するしかないだろう。