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コラム
(2024/09/18)9月に入ってから、新聞にEV関連の記事で類似した記事が複数掲載された。いずれも、電気自動車(EV)の販売低迷によるものだ。この先の新車販売をEV一本でいくと決めた会社は、その宣言を撤回。一方、EV需要の伸び悩みを受けて目算が狂ったメーカーはコスト削減に舵を切るという報道があった。この先、EV市場はどこに向かうのか?
・高い車両価格、伸びない需要
ドイツ自動車大手のフォルクスワーゲンが、国内の工場閉鎖を検討しているというニュースが報道される少し前、スウェーデンの高級車メーカーとして知られるボルボ・カーズがとあるプレス発表を行なっていた。2030年までに世界の新車販売すべてを電気自動車(EV)にするという目標の撤回だった。同社は、欧州の自動車メーカーにおけるEV化の”旗振り役”というポジションであったが、EVへの需要の伸び悩みがボディブローのように効いてきたのか、軌道修正を余儀なくされたようだ。今後は、2030年までに新車販売の90%以上をEVもしくはプラグインハイブリッド車(PHV)とし、最大10%はハイブリッド車(HV)にするという新たな目標を設定することとなった。
同社が、2030年に向けての全EV販売を掲げたのは2021年。歴史ある自動車メーカーとしては大胆な決断であり、ライバルより早く方向性を示すことで存在感と訴求力をアピールするのが狙いだった。この間、2025年までには世界販売のおよそ50%をEVにするという中間目標を設定していたが、実際のところ今年1月から6月までの数値で23%どまりだったという。背景にあるのは、ガソリン車やHVと比較して高い車両価格であること、各国政府の補助金が打ち切られたことなど、事業を推進するなかでその環境が徐々に厳しくなっていることを挙げることができる。もともと既存の車両を製造、販売していた自動車メーカーとしては、いきなり安価なEVをリリースすることは至難の技。日本でもよく話題に上るが、充電ネットワークの整備などインフラの拡充も思うように進んではいないようだ。そこにきて、もともとエンジン開発とは無縁の中国の新興メーカーが次々と新車を開発。お手頃価格のEVが発売されれば、伝統メーカーとしては正直歯が立たない。このような事態を受け、ドイツのメルセデス・ベンツグループですら、今年2月に2030年までのEVの専業化目標を撤回している。暗雲立ち込めている自動車メーカーは決して少なくないことがわかるだろう。
・VWは雇用保険破棄を通知
欧州での”後ろ向き”な動きがどれほど影響したのかはわからないが、フォルクスワーゲンの工場閉鎖検討のニュースは、大きな衝撃をもってメディアに伝えられた。EV事業の不振に引っ張られる前に手を打つため、コスト削減、収益力向上を目指すして本国における工場閉鎖に着手する可能性があるというものだが、本拠地での工場閉鎖となれば、同社初の事態とのこと。これはすなわち人員削減に直結する問題と考えられるため、話が浮上した時点で同社の労働組合側はストライキをも視野に入れて徹底構成の構えを見せたという。
なお、フォルクスワーゲングループでは、高級車ブランドのポルシェ、アウディも傘下にある。これらふたつのブランドに比べ、”大衆車”ブランドであるフォルクスワーゲンは相対的に利益率が低い。そのため、工場閉鎖の対象になったと考えられる。ドイツ本国には、関連する6つの部品工場があるとされ、10工場でおよそ13万人が働いている。閉鎖に伴う人員削減を見据えたリストラ策に着手しているのか、今月中旬には従業員らの雇用保障を含む労働協約を今年末で破棄することを労働組合側に通知した。あわせて同社では、「ドイツにおけるコストを競争力あるレベルにまで削減しなければならない」と雇用保障の破棄に対しての理由説明を行なったという。
ここでもやはり、EV販売の低調が見え隠れする。収益が上がらず苦戦が目立つ。加えて、フォルクスワーゲンでは、かつてディーゼルエンジンでの排ガス不正問題があっただけに、これからはEV! とばかりに巨額の投資で大きくシフトししたものの、販売は低迷。ボルボ同様に、中国資本のEVメーカーに市場で先行され、苦戦が続く。
自動車メーカーの問題として見るだけでなく、欧州における脱炭素化への取り組みを見ても、一筋縄ではいかない問題点があるのだろう。そもそも、フォルクスワーゲンはじめ多くの欧州の自動車メーカーではディーゼルエンジン車を多く製造していた。この広範囲にわたる普及のもと、ディーゼルエンジンの高性能化を目指し、温室効果ガスの排出量を削減することで、脱炭素化の実現を考えていたのがEUの取り組みだった。だが、そこで厳しい排ガス規制を課したことで、フォルクスワーゲンでは不正問題に繋がることに。結果、ディーゼルエンジンではなく、EVへシフトしようという流れに傾いたのである。
EVの普及を高めるべく、EU域内では補助金や税制優遇をもって拡大をサポートしたものの、それが逆に安価な中国製EV購入へと流れ、市場のバランスが乱れることに。EV製造においてさまざまな”特権”を持つ中国メーカーに、伝統ある欧州の自動車メーカーは気がつけば太刀打ちできない状況へと追い込まれてしまった。脱炭素化実現で国家の基幹産業である自動車メーカーを苦しめることになるとは??。なんとも皮肉な結末だとしか言いようがない。