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トヨタ、ふたたびF1の舞台へ

コラム

(2024/10/15)

このほど、トヨタが発表したF1チームとの提携。モータースポーツや自動車専門のウェブサイトだけでなく、新聞各紙が一斉に報じることとなった。2009年に自チームで参戦していたF1から撤退。それから15年の歳月を経て、なぜ今、ふたたびトヨタがF1に関わろうとするのか。

・F1チームのハースって!?
記者会見が行なわれたのは、静岡・富士スピードウェイに隣接する富士モータースポーツフォレスト。富士スピードウェイホテル、富士モータースポーツミュージアムなどモータースポーツに関する施設がいろいろと揃っている場所だ。レース観戦をはじめとしたモータースポーツ文化をさまざまな角度から体感、楽しめる複合施設であるとも言えるだろう。将来的にモビリティ・モータースポーツの街を創出することを掲げており、近隣では新東名高速道路の開通を目指して工事が進む。施設ほど近くには、小山パーキングエリアにスマートICが設置される予定であり、利用可能になると東京都心部からはクルマで1時間ほどでアクセスできるという。

いわば、トヨタが関係するモータースポーツの”顔”であるこの場所での会見で明らかになったのは、F1に参戦中のチーム、ハースとの提携だった。正式名称「マネーグラム・ハースF1」は、2016年にF1へ新規参入。F1界には伝統あるチームも多いが、ハースは今シーズン参戦する10チームのなかでもっとも若いチーム、つまり”新参もの”でもある。強豪チームに比べれば屋台骨もコンパクトで、常勝チームでもない。しかも大半が欧州で産声を挙げたチームであるのに対し、ハースはオーナーがアメリカ人。本拠地もアメリカ・ノースカロライナ州となるが、F1チームの拠点はイギリス・オックスフォード州に構えている。一方、オーナーはF1だけでなくアメリカではNASCARカップシリーズに参戦する「スチュワート・ハース・レーシング」の共同オーナーも務め、こちらは同シリーズでの強豪チームとして知られている。レーシングチームの運営キャリアは豊富なようだ。F1チームのほうも、現在は中団を争うチームとして実力もつけ始めている。

F1に参戦する多くのチームは、自社/自チームでエンジンやシャシーを制作することがこれまで当たり前であったが、このハースはその一切を組織内部で行なわず、他社と技術提携を結んでいる。つまり、アウトソーシングでチームのレーシングカーを準備しているのだ。今シーズン、パワーユニットとギヤボックスなどはイタリアのフェラーリから供給を受けており、シャシーなどは同じくイタリアのダラーラが製造しているとのこと。また、フェラーリによるパワーユニットの契約は2028年まで延長している。F1をはじめとするモータースポーツシーンにおいて長いキャリアと確かな技術を提供するメーカーとの技術提携が実現しているからこそ、F1の戦績も確かなものにしているハース。今年、チーム内の組織改革を行なった際には、チーム立ち上げ当初からチームスタッフとして要職を担ってきた日本人の小松礼雄氏がチーム代表に就任。日本のF1ファンなら皆知る事実といえるだろう。

・”参戦”ではなく、”提携”
今回のトヨタとハースの共同会見において、発表されたのは「TOYOTA GAZOO RacingとMoneyGram Haas(マネーグラム・ハース) F1 Teamの自動車産業の未来を見据えた業務提携」だった。トヨタのモータースポーツ部門であるガズーレーシング(以下、TGR)とハースチームは、今後、ハースのF1車両開発分野などにおいて一緒に開発に関わることになる。具体的な提携内容は今後詰めて話を進めることになるとしているが、基本合意書には、”モノ”や”コト”にとどまらず、そこに関わる”ヒト”の派遣も含まれているとのこと。つまり、車両開発に携わるエンジニアや車両を調整するメカニックはもちろんのこと、ドライバーも送り込む計画もしっかりと含まれている。あくまでも”参戦”ではないと会見でも説明が行なわれたが、”提携”の結果、近い将来、TGRからの派遣としてハースで働くエンジニア、メカニックはじめ、F1マシンを操るドライバーの姿を見ることができるかもしれないというわけだ。世界最高峰と言われるF1の舞台で日本の若手人材が活躍することで、日本における自動車産業の発展に繋がれば??というのが、トヨタの願いでもあるのだ。

モータースポーツの最高峰であるF1には、多くの最新の技術が投入される。”走る実験室”と昔から言われるように、過酷な環境下で走るクルマから得られるデータは市販車のデータにフィードバックされる。最先端の技術に触れることが、”ヒト”の育成にも繋がることは明白だ。かつて、トヨタは2008年に起きたリーマン・ショックを経て、2009年にF1からの撤退を決断。それを決めたのが豊田章男会長でもあった。今回の会見で当時を振り返った豊田会長は、F1からの撤退は経営判断として間違っていなかったとした上で「日本の若者が一番速いクルマに乗る道筋を閉ざしてしまったかなと、心のどこかで思っていた」と述べたという。それだけに、今回の提携ではその道筋の復活が期待できるといえるのではないだろうか。

・「オフィシャル・テクニカル・パートナー」としての今後
今回の提携発表により、気の早いトヨタファンであれば、すぐ二人目、三人目の日本人F1ドライバーのデビューを心待ちにするのではないだろうか。現在、F1に参戦する日本人は角田裕毅ただひとり。一方、トヨタはTGRドライバーとして平川亮と宮田莉朋のふたりをそれぞれWEC(世界耐久選手権)等の世界選手権に送り出している。平川の主戦場はWECだが、昨年、マクラーレンF1のリザーブドライバーになることが発表され、現在もチーム帯同を続ける。一方の宮田は昨シーズン、日本のSUPER GTとスーパーフォーミュラでダブルタイトルを獲得。日本史上最年少でのWタイトル獲得という偉業を土産に、F1直下のカテゴリーに位置するFIA F2に参戦中だ。TGR所属ドライバーであっても、チャンスあるドライバーには参戦を認めるなど、TGRではフレキシブルな態度を見せている。そこにきて、今回のハースとの提携が実現したことで、ふたたびF1を目指すためにトヨタのドライバーとしてトップを狙おうと、目の色を変える若手日本人ドライバーも増えるかもしれない。もちろん、ドライバーにとどまらず、エンジニアやメカニックもしかり。活躍の場を日本ではなく世界へと目を向けて挑戦したいと願う若手も出てくるはずだ。

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