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コラム
(2025/01/15)2024年12月、日本を代表する自動車メーカーとして知られるホンダと日産自動車が経営統合に向けた協業を始めることで調整に入ったというニュース。自動車に興味を持つ人たちにとって、大きなニュースであったに違いない。業界自体が100年に一度と言われる変革期にあるなか、生き残りをかけて選択したこの決断を振り返る。
・昨年春には、HV協業を検討
12月の発表を前に、両社では3月に将来的な協業を見据えた検討の必要性から、自動車の電動化・知能化に向けて、戦略的パートナーシップの検討を開始する覚書を締結している。当時、ホンダのホームページには、「自動車車載ソフトウェアプラットフォーム、バッテリーEVに関するコアコンポーネント、商品の相互補完など、幅広いスコープで検討を進めていきます」と記されている。すでにこの時点でも、「ライバル同士のかつてないパートナーシップ」とマスコミに取り上げられ、その背景には新興メーカーの勢いに対する強烈な危機感がにじんでいたと報じられた。確かに、業界がエンジン搭載車からEVへのシフトが迫るなか、”メイドイン・ジャパン”のEVはさほどインパクトはなく、EVといえば、アメリカのテスラを筆頭に中国などの新興メーカーの台頭が目立つ。結果としてエンジン車だけでなく、ハイブリッド車のシェアも奪われており、中でも両社は中国での売上げが停滞し、苦戦していたのは言うまでもない。そのなかで両社が協業することで結果が出るのでは、という結論に至り、スピードをもって協業の検討を開始したという。ただし、この時点では、ホンダと日産のそれぞれの商品における”ブランドイメージ”の大きな違いから、協業においては単純なOEM供給などの”視覚的”な共有という考えはなく、あくまでも「クルマの中身での協業を検討する」というレベルでの話し合いであり、ソフトウェアの重要性が増すなかでの模索案だった。だが、長い歴史がある自動車メーカーと、そうではない新興メーカーとの価格競争は依然として厳しく、また、競争自体がこれまでの方法から変化したものとなり、従来の”自動車屋”として太刀打ちできるものでなくなってきていることも避けられない事実。”待ったなし”の状況下で淘汰される前に両社が手を取り合うことで、自社の今後の戦略の実現を加速させたいという思いで舵を切った協業の検討だった。
・”生き残り”のハードルは、さらに高く
3月に発表された協業検討における記者会見の場でも、両社のトップが口にしたのは、新興メーカーが見せる勢いへの強烈な危機感だった。EVが席巻するなか、自動車産業の勢力図はあっという間に一変しており、なにをもって”生き残る”かが日本やドイツなどの歴史ある自動車メーカーにおける厳しい現実となっていた。
年の瀬が近づくなか、両社の協業はさらに大きな変化をもって動くことになる。それが「経営統合」にむけての協議だった。日本の基幹産業を代表する自動車メーカー2社が下したのは、持株会社を設立して両社が傘下に入るというものだった。さらに、今後にむけて三菱自動車が合流することを検討することも明らかにされた。統合が実現すれば、年間販売台数が800万台超の世界有数の巨大自動車グループが誕生するとあり、両社揃っての会見を前に、TVのニュースや新聞が大きく取り上げたのは記憶に新しい。
3月に始まった両社による包括的協業に向けた検討から、8月には次世代のクルマに欠かせない車載OSなど、ソフトウェアの開発やEVで部品の共通化を進める合意が済んでいたこともあり、そのなかで一層密なつながりを意識することになった背景には、EVはもとより自動運転も含めた、今後の自動車の”在り方”を踏まえた上での”生き残り方”ではなかったか。EVが主流となりつつある中国市場で販売台数を大きく落として工場を閉鎖、人員削減にも踏み切っている。日産ではEVはもとより、アメリカ市場での売れ筋であるHVがないためにブランド戦略が立ち行かず、業績が悪化。結果として、今回の統合はホンダが新会社の社長はじめ取締役の過半数を選ぶなど、主導権を握ることになると会見で明らかにされており、いわば”日産救済”の色合いが鮮明だ。しかし、形態としてはあくまでも”統合”であるため、前述のように持株会社の傘下に両社が入り、その後、この会社が株式を上場することで、ホンダと日産は株式上場を廃止することになり、それぞれが”ブランド”と化すことになる。
大胆に踏み込んだ変革が今回の統合という形になったことになるが、その裏では、日産の業績悪化がちらつくのは確かなこと。今回の統合においても、9千人の削減や生産能力の2割削減といった再建計画が大前提と言われている。昨年1年間の販売台数を見れば、世界7位のホンダと世界8位の日産ながら、統合が実現すれば、世界3位の巨大グループが誕生するという。また、これにより、日本国内はトヨタを筆頭とするグループと別のグループが誕生し、2大グループが形成されることになる。それぞれ伝統あるメーカーが統合することで生まれるメリットもあれば、当然ながらデメリットもあるはず。だが、それをデメリットとせず、事業統合によって生まれる新たな変革を活性化に繋げることが、競争力強化への戦略となるはずだ。